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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)7108号

原告

菅俊彦

右訴訟代理人弁護士

西川雅偉

被告

株式会社総合健康リサーチセンター

右代表者代表取締役

谷口正毅

右訴訟代理人弁護士

弥吉弥

右当事者間の頭書請求事件について、当裁判所は、昭和五八年七月一九日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

一  被告は原告に対し、金九九万三四五〇円と、内金三九万三六〇〇円に対する昭和五六年一〇月一〇日から支払済まで年一四・六パーセントの割合による金員、内金五九万九八五〇円に対する昭和五六年一〇月一〇日から支払済まで年六分の割合による金員、とを支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の、各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

一  申立

1  原告

(一)  被告は原告に対し、金一八一万五九八五円と、これに対する訴状送達の翌日から支払済まで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(但し、昭和五六年六乃至八月分賃金の未払金八一万六〇〇〇円、同年八月五日付解雇による解雇予告手当金四〇万〇〇〇〇円、右解雇による退職に伴う退職金五九万九九八五円の合計金とその遅延損害金(賃金の支払の確保等に関する法律第六条所定の割合によるもの)との請求である。)

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決、並びに仮執行宣言。

2  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

二  主張

1  原告の請求原因

(一)  (雇用関係等)

被告は、疾病予防及び健康管理の為の施設の設置・管理及び賃貸借等を目的とする資本金二五〇〇万円の株式会社であるところ、原告は、昭和五三年一〇月二五日、被告に事務長として雇用され、就労してきたが、昭和五六年五月六日から私病により欠勤していた。

(二)  (退職等)

然るところ、被告は、昭和五六年八月五日、原告を解雇し、これによって、原告は被告を退職した。

(三)  (賃金・退職金の定め)

右退職当時の原告の被告における賃金は、月額金四〇万円(内訳基本給三五万円役付手当金五万円)であり、毎月一五日締切二五日支払となっており、かつ、私病傷(ママ)によって欠勤したときも、三カ月までは、通常の賃金が支払われることとなっていた。

また、当時の被告における退職金は、退職者に対し、退職時の「基本給」の二分の一と「役付手当」との合計金に勤務期間に応じた所定の支給率を乗じた額を支給する、との定めであったところ、右支給率は、勤務期間二年で一、同二で(ママ)三、端数期間は一カ月未満は一カ月としたうえ、一年未満の分は月割として算定する定めであった。

(四)  (未払賃金等の計算)

従って、原告は被告に対し、右在職中の昭和五六年六乃至八月分の賃金、右解雇による解雇予告手当、右退職による退職金、の各債権を有するところ、被告は、右六月分の賃金として、所定額の六割にあたる金二四万円を支払っただけで、その余の支払をしない。

右未払分の金額は、次の<1>乃至<3>のとおりであって、その合計額は、金一八一万五九八五円である。

<1> 昭和五六年六乃至八月分の賃金

六月分賃金未払分 金一六万円

七月分賃金 金四〇万円

八月分賃金五日迄の分 金二五万六〇〇〇円

(右未払賃金合計 金八一万六〇〇〇円)

但し、右八月分賃金は、一カ月所定勤務日数を二五日として、右月額賃金四〇万円を一六日分の日割計算した額である。

<2> 解雇予告手当

右月額賃金一カ月分相当額 金四〇万円

<3> 退職金

原告の勤務期間二年一〇月の場合の所定支給率二・六六六、基本給三五万円、役付手当五万円、に基づき、前記(三)後段の算式で算定した額 金五九万九九八五円

但し、各算式は、次のとおりである。

支給率

一+(三-一)×一〇÷一二=二・六六六

退職金

(三五÷二+五)×二・六六六=五九・九九八五(万円)

(五)  (本訴請求)

よって、原告は被告に対し、右賃金未払金、解雇予告手当、退職金の合計金と、その遅延損害金として、前記原告の申立(一)記載のとおりの金員の支払を求める。

2  請求原因に対する被告の認否及び主張

(一)  (認否)

請求原因(一)(雇用関係等)については、原告と被告との間の雇用関係及びこれに基づく原告の就労の点は否認し、原告の出社しない理由は不知、その余は認める。

同(二)(退職等)については、否認する。

同(三)(賃金・退職金の定め)については、否認する。

同(四)(未払賃金等の計算)については、被告が原告に対し、当時、金二四万円を支払った点、は認め、その余は争う。

同(五)は争う。

(二)  (主張)

(1) (取締役としての就任・退職)

原告は、昭和五三年一〇月頃、被告の増資の一部(三〇〇〇株、金一五〇万円を引受けて、被告の取締役に就任する話がまとまり、同月末頃から被告に出社し、専務取締役事務長に就任した。なお、原告は、同年一一月二八日の臨時株主総会で、正式に取締役に選任された。

原告は、昭和五六年六月当時、役員報酬として被告から月額金四〇万円を受けていたが、右報酬額が社長と同額であった為、事務処理上考慮して内金五万円は役付手当名下に支払われていたのであり、これらは、賃金として支払われたものではなかった。

原告は、昭和五六年五月六日以降、被告に何の連絡もなく出社せず、被告から問い合わせても所在不明で、事務長の職務を放棄したままであったので、被告は同年六月三〇日の定期株主総会で原告を取締役として再任せず、その為、原告は同日をもって任期満了により被告取締役を退任した。

以上のとおり、原告は、当初から被告の取締役と一体となった事務長職を担当して来たもので、被告との間に雇用契約を結んだことはなく、従業員兼取締役というものでもなかった。

従って、原告は被告の従業員でなかったのであるから、原告の主張にかかる、前記未払賃金、解雇予告手当、退職金、の各債権は、生ずる余地がなく、右役員報酬についても、原告が被告取締役を退任した右昭和五六年六月三〇日の後の分は、生じない。

(2) (役員報酬の減額)

被告、(ママ)当時、原告の役員報酬を、昭和五六年六月分以降月額金二四万円に減額した。

右措置は、原告が、前記のとおり、昭和五六年五月六日以降被告取締役事務長の職務を放棄して出社しなかったこと、から措られたものであって、原告の右職務放棄に照らせば、被告は、この間の原告の役員報酬を全額不支給でもよかったのであるが、特別に病気欠勤扱として同年六月分から四割控除するだけに止めたものである。

なお、右役員報酬減額の措置は、同年四月四日の被告取締役会における、株主総会から取締役会が委任されている役員報酬の配分を代表取締役に一任する旨の決議、により付与された権限に基づき、被告代表取締役が、決定したものである。

従って、原告が被告から支給を受けうる昭和五六年六月分の役員報酬は、月額金二四万円であって、被告が原告に対しこれを支給済であることは前記のとおりであるから、被告の原告に対する昭和五六年六月分の役員報酬の未払分も存しない。

(3) (賃金・退職金規定)

仮に、原告が従業員の地位も有していた場合の賃金・退職金の計算は、当時の被告の諸規定によれば、次のとおり為されるべきである。

<1> (賃金)

被告の従業員に対する当時の賃金の支払は、毎月二五日に、当月一日から末日までの分を支給する、という取扱であった。

また、当時、被告には、原告主張のような、私病傷欠勤三カ月まで賃金を支給する、との旨の賃金規定は存しなかった。

従って、原告は前記のとおり昭和五六年五月六日以降勤務していないのであるから、被告が特に認めて支給した以上の賃金を受けうる権利は生じない。

<2> (退職金)

被告において、昭和五五年一一月一日から実施された従業員に対する退職金規定によれば、従業員の退職金は、退職時の本給月額に勤続年数に応じた支給率を乗じた額を支給し、その支給率は勤続二年以上三年未満では一とするが、業務外の傷病による労務不能の場合等自己都合による退職については、右支給率をその半分とする、等との旨、定められていた。

これを、原告について、仮に、従業員であったとして、計算すると、その退職金は、金二〇万円となる。(四〇万円×一×〇・五=二〇万円)

従って、原告が仮に従業員であったとしても、被告に対しては、右額以上の退職金債権は生じない。

(三)  よって、原告の請求債権は存しないから、被告は原告の請求には応じられない。

(四)  後記原告の反論は争う。なお、昭和五六年八月五日の原告と被告との会合は、原告の希望に従って右日に為されたもので、その目的は、原告夫妻所有の被告株式を被告指定の者に譲渡する手続きを行なうことであり、健康保険の話は、右手続き終了後に原告から次の就職までの間の便宜的取扱の希望が出されたものに過ぎず、右八月五日は、原告の被告退職日ではない。

3  右被告の主張に対する認否及び反論

(一)  (認否)

右被告の主張(二)の(1)乃至(3)、(三)は、いずれも争い、次のとおり反論する。

(二)  (反論)

(1) 原告の被告における法律上の地位について

原告は被告において取締役事務長としての地位にあったが、取締役の地位は、単に名目的なものにすぎず、被告における就労は、専ら事務長としてのもので、右事務長の地位は、雇用契約に基づくものであった。

このことは、次の<1>乃至<6>の事情に照らし、明らかである。

<1> 原告の被告における職務は、専ら事務長としてのもので、その職務内容は、被告の医療部門(これは法律上の制約から財団法人日本予防医学協会付属診療所が担当した)を除く他の部門の総括者として被告代表取締役の指示の下に、従業員の指揮監督を行なうとともに、自らも営業担当者として顧客回りをする、というものであったが、その裁量に委ねられていた事項は、医療スタッフが休んだときの臨時スタッフの採用、人間ドック受診者の募集、位であり、物品の購入、所定外の出金、職員の採用、職員の労働条件の決定は、すべて社長の決裁事項であって、原告の裁量の幅は極く限られていたこと。

<2> 被告においては、当時、株主総会や、取締役会が実際に開催されることはなく、原告が具体的に被告の役員の一員として被告の経営に参画したことはなかったこと。

<3> 原告の肩書も、「財団法人日本予防医学協会付属診療所事務長」と「株式会社総合健康リサーチセンター専務取締役」とを区別して用いており、原告は、通常、被告の内外では、単に、「事務長」と呼ばれていたこと。

<4> 原告が、当時、その就労に対し被告から支給されていた月々の金員は、基本給と役付手当という名目で賃金としてのものであったこと。

<5> 原告が昭和五六年五月六日以降私病傷で欠勤したときも従業員としての欠勤の手続きを取っており、その後原告が被告を退職するに至る経緯の中でも、事務長解任、健康保険証の取扱等において、被告は原告が被告の従業員であることを前提とした対応を取っていること。

<6> 原告が被告で勤務する際には、原告は当時の被告代表者から「被告は五年後借金完済して右協会に吸収される予定で、以降は原告は右協会の職員として勤務することとなる」旨の話を聞かされ、財団法人日本予防医学協会の理事の面接を受けたうえで事務長として採用され、かつ、原告が被告の資金繰に出資という形で協力したことに伴い名目的に被告取締役に名を連ねることとなった、という経緯があったこと。

(2) 賃金未払金について

被告においては、当時、従業員の給与に関する就業規則所定の給与規定は存せず、財団法人日本予防医学協会の就業規則の給与規定に準拠した運用が為されていたところ、右協定の給与規定では、私病傷欠勤三日から三カ月間は通常の給与を支給する旨の定めであり、現に被告においても、右規定のとおり 運用が為されて来た。

また、被告の主張する役員報酬減額措置を決定したという昭和五六年四月四日付被告取締役会は存しなかった。当日は月の第一土曜日で被告は休業日であって取締役会が行なわれるはずもなく、原告がこれに出席したこともその通知を受けたこともなかった。原告が被告から支給されていた給与は、当時、全額右事務長としての勤務に対する賃金であって、役員報酬とみる余地はなく、このことは、右支給金が、基本給三五万円、役付手当五万円の名目であり、これが賃金であることを前提とした雇用保険料の控除が為されていることからも、明らかである。

更に、被告において当時、給与計算期間も右協会の給与規定により処理されていたのであって、右規定によれば、毎月一五日締切二五日支払とされていた。

よって、未払賃金計算に関する被告の主張は、すべて前提を誤ったもので、これを正せば、原告主張のとおりとなる。

(3) 退職金について

被告は、それまで原告に被告従業員の地位が残っているような説明であったところ、昭和五六年八月五日、原告に対し、同年七月一〇日付事務長解任とともに従業員としての地位もなくなった旨確定的に説明し、その後、原告宛の健康保険証返還請求等の通知でも右八月五日に原告が被告を退職したことを前提とした記載をしている、という事情からみれば、被告は、右日に、原告を解雇した、というべきである。

そして、被告においては、当時、従業員の退職金についても、前記協会の退職金規定に準拠した取扱が為され、これに従った退職金の支給が為されて来たのであり、被告主張の昭和五五年一一月一日施行の被告退職金規定については、当時これを従業員に説明し了解を求めたこともなく、原告自身見せられたこともないもので、このような規定は存在しなかった。

従って、原告の退職金の算定についての被告の主張は、前提を誤ったもので、これを正せば、原告主張のとおりとなる。

(三)  よって、右被告の主張は、いずれも、原告の請求債権を左右するものではない。

三  証拠

証拠関係は、一件記録中の書証・人証等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  原告被告間の雇用関係について

1  (雇用関係の存否)

原告が、昭和五三年一〇月二五日以降、その終期はひとまず措くとして、少なくとも昭和五六年六月三〇日まで被告の取締役事務長の地位にあって、昭和五六年五月五日まではその職務に従事していたこと(請求原因(一)の一部等)は、当事者間に争いがない。

そして、原告の右被告における勤務関係につき、原告は、これを雇用契約に基づく従業員としてのもの、と主張し、被告は、委任契約に基づく取締役としてのもの、と主張するので、まず、この点につき検討する。

(一)  (前提事実)

成立に争いがない甲第五号証の一乃至五(原告の給与明細書)、同第八号証(事務長解任等の通知)、同第九号証(健康保険の取扱等の通知)、同第一〇号証(社会保険料・財形預金の立替明細書)、被告代表者谷口正毅の尋問結果(第一回)により成立を認める乙第一号証(被告株主総会議事録)、被告代表者谷口正毅の尋問結果(第二回)により成立を認める乙第三号証(被告取締役会議事録)、原告本人尋問の結果(第一回)(但し、後記措信しない部分を除く)、被告代表者谷口正毅の尋問結果(第一、二回)(但し、後記措信しない部分を除く)、弁論の全趣旨によれば、次の(1)乃至(6)の事実が認められ、これに反する原告本人尋問の結果(第一回)、被告代表者谷口正毅の尋問結果(第一、二回)の部分は、他の証拠に照らし採用できず、他に次記認定を左右するに足る証拠はない。

(1) 事務長という職名は、通常、支配人的な職務に従事する従業員に冠せられる職名であるところ、被告においても、事務長の職務が取締役会で決定した取締役の業務分担に過ぎないとみるべき事情はみられず、原告に対して、取締役としての特段の業務執行権限が付与されたことは窺えないこと。

(2) 原告は、被告において、日常の業務に関する職員人事や金銭出納について相当広汎な裁量権限が付与されていたとみられるが、事務長が支配人的な立場に立つものであれば、このこと自体は従業員であることと矛盾するものではないこと。

(3) 原告が被告に入社するについては、双方とも、原告が事務長として勤務することを主眼としており、取締役就任は事務長の職務遂行の便宜の為という程度のものであったこと。そして、原告は、被告において、後に一五〇万円程出資のうえ取締役に就任することが予定されていたとはいえ、取締役就任の約一カ月前から現実に事務長として勤務していたこと。

(4) 原告に対する被告からの月々の支給は、従業員に対する給与の形式で為されており、被告の経理上も給与として処理していたこと。

(5) 被告の取締役に対する役員報酬は、昭和五六年四月分以降、非常勤取締役については不支給となり、原告については、それを給与とみるか役員報酬とみるかはひとまず措くとして、従前の支給額月額五〇万円が月額四〇万円に減額されたこと。

(6) 原告は、昭和五六年六月三〇日の被告株主総会で取締役として再任されなかったことにより、同日限り被告取締役を退任したが、被告は、その後も、原告に対し、同年七月一〇日付事務長解任を通知し、同月二四日付で原告の同月分の社会保険料・財形預金を立替払し、同年八月一九日付で原告が同月五日に申出た健康保険の継続使用について「原告が退職後一〇日以内に所定手続きを措らなかった為もはやその継続使用は出来なくなったから原告の健康保険を同年八月二五日以降無効とする」との旨の通知をする等、右取締役退任後も被告との関係が残っていることを前提とする行動をとっていること。

(二)  (検討)

右事実によれば、被告においては、当時、事務長が、必ずしも取締役と一体の地位職務とは取扱われておらず、右事務長職はむしろ従業員としてのものであるところ、原告は、被告に事務長として入社して勤務しており、取締役としての地位は右事務長職遂行上の便宜等の副次的なものであったとみられ、被告も、原告が取締役と従業員と両方の地位を有していることを前提とする行動を、当時取っていたとみられる、というべきであり、そうであれば、原告については、被告取締役としての関係とは別に、被告に入社する際に被告との間で雇用契約が成立しており、しかも、原告の被告における右取締役事務長としての勤務は、主に、従業員である事務長としての勤務であった、と認めるのが相当である。

2  (賃金額)

次に、当時、被告が原告に対し、原告の勤務につき月額金四〇万円を、内金三五万円を本給、内金五万円を役付手当の名目で支給していたこと(請求原因(三)の一部)は、弁論の全趣旨に照らし、当事者間に争いがないというべきところ、右支給金が賃金なのか役員報酬なのか、について争いがあるので、この点につき検討する。

右1(二)の検討の結果によれば、被告における原告の勤務が、主に、右雇用契約に基づく事務長としての勤務であった、ということであり、また、右1(一)(1)のとおり、原告が被告取締役としては代表取締役以外の取締役と比べて特別の職務を担当したとは窺えないところ、右1(一)(5)のとおり、昭和五六年四月分以降は、被告の非常勤取締役の役員報酬が不支給となり、その際原告も月々の支給額を一〇万円減額されており、更に、右争いがない事実のとおり、被告の原告に対する月々の支給金は給与名目で支給されていたのであり、これらの事情に照らせば、原告に対する被告からの月々の支給金は、全額従業員としての給与であった、と認めるのが相当である。

3  (退職の時期及び事由)

原告が昭和五六年八月五日以降には被告を退職済であること(請求原因(二)の一部)は、当事者間に争いがないところ、原告は、右同日付解雇、を主張し、被告は、同年六月三〇日付退職、を主張する如くであるので、この点につき、検討する。

(一)  (前提事実)

右検討の前提とすべき事実として、前記認定事実の外、前記1冒頭掲記の証拠によれば、次の(1)乃至(4)の事実が認められる。

(1) 原告は、昭和五六年五月六日以降被告を欠勤し、そのまま、被告において勤務しないままであったこと。

(2) 原告は、同年三月頃から、度々、被告代表者から事務長を辞めるよう言われており、右欠勤中の同年五月頃には、原告からも被告に対し、出資金の払戻を受けて取締役事務長を辞任しても良いような話をしていたとみられること。

(3) 原告は、右欠勤中、同年六月以降は、原告から被告に連絡を取ることもないままであり、被告から同年七月一〇日付事務長解任(その事実があったか否かはひとまず措く)の通知を受けた際にも被告に対し特段の応答をせず、被告から出資金払戻(株式譲渡)の件で同年八月五日の会合の呼出を受けると、これには出向いていること。

(4) 右八月五日の会合で、株式譲渡の手続き終了後、被告退職後の原告の健康保険継続使用の件が話合われていること。

(二)  (検討)

右の事実及び1(一)(6)の事実、並びに、右1(二)の検討の結果によれば、当時、原告からも被告からも、原告の退職について明確な形での意思表示(解雇或いは自己退職)はみられない(右七月一〇日付事務長解任通知もその後の被告の対応等に照らし必ずしも従業員としての解雇も含むものとまではみられない)が、結果的には、少なくとも、右八月五日以降は、原告が被告を退職している、というべきであり、その退職の時期及び事由は必ずしも明確ではないが、原告が右長期欠勤中に被告での勤務継続の意思を有する者のものとは考えられない態度に終始していたところ、同年八月五日には、原告と被告は、原告が被告を確定的に退職することを前提としたとみられる原告所有の被告株式の譲渡の手続き及び原告の健康保険の被告退職後の継続使用の話合を行なっている、等の事情を考え合せれば、右退職の時期及び事由については、原告は、右八月五日に、確定的に被告を退職し、それも、解雇等のどちらか一方の意思表示によるものではなく、合意によって退職した、とみざるをえない。

(なお、原告は、前記のとおり昭和五六年六月三〇日被告取締役を任期満了で退任したが、前記のとおり従業員としての地位を有していたから、右取締役退任により当然に被告を退職することにはならない。)

二  未払賃金について

1  (私病傷(ママ)欠勤給与支給規定適用の有無)

原告が昭和五六年五月六日以降被告を欠勤していたこと(請求原因(一)の一部)は、当事者間に争いがないところ、原告は、被告においては、私病傷による欠勤の場合は三カ月までは通常の賃金を支給することとなっていた、と主張するので、この点につき検討する。

(一)  (前提事実)

原告本人尋問の結果(第一回)(但し、後記措信しない部分を除く)、及びこれにより成立を認める甲第四号証(財団法人日本予防医学協会の給与規定)、同第六号証の一乃至三、同第七号証(いずれも診断書)、被告代表者谷口正毅の尋問の結果(第二回)、及びこれにより成立を認める乙第三号証(被告取締役会議事録)、弁論の全趣旨によれば、次の(1)乃至(4)の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果及び被告代表者谷口正毅の尋問の結果(第一回)の部分は、他の証拠に照らし、たやすく措信できず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

(1) 当時、被告は、財団法人日本予防医学協会の子会社というべき存在であったところ、被告における従業員の給与については、被告独自の給与規定はなかったが、同協会の規定に準じた取扱が為されていたこと。

(2) そして、右協会の給与規定によれば、私病傷による欠勤については、専門医師の証明を提出することを条件に、欠勤三日から三カ月間は通常の給与を支給する定めとなっていたが、当時、被告においても右規定に従った運用が為されていたこと。

(3) 原告は、被告に対し医師の診断書としては、昭和五六年五月一八日付のものを同月二五日までの欠勤について提出したが、その後は、同年七月九日の後に原告の弟にあたる医師の一カ月の安静通院を要する旨の診断書を提出しただけで、この間の欠勤につき、特段の連絡もしていないこと。

(4) 被告は、これに対し、原告の同年六月分の支給分を所定額の六割である金二四万円に減額して支給したこと。右減額は、原告の給与を従前の額から月額一〇万円減額を決定したのと同じ昭和五六年四月四日付の被告取締役会の決定に基づき、被告代表取締役が原告の同年六月分の給与期間以降の欠勤を病気欠勤扱いとして決定したものであること。

(二)  (検討)

右事実によれば、原告主張にかかる右協会の給与規定所定の私病傷欠勤の場合の通常給与支給規定が被告の従業員にも準用されるとしても、原告が、昭和五六年五月二六日以降の欠勤について、右規定による給与支給の前提である専門医師の証明の提出をしたことは窺えず、また、同年七月九日の後に原告が被告に提出した診断書を作成した原告の弟にあたる医師が右規定所定の専門医師に該当するともいえないから、原告の右欠勤については右支給規定の要件を充たしているとはいえない。

そうであれば、原告は、右欠勤期間のうち右同年六月分以降については、被告が右減額支給を決定した月額金二四万円以上は、支給を受けられない、というべきである。

2  (未払賃金の算定)

そこで、右1及び右一2、3の検討の結果を前提に、原告の被告に対する昭和五六年六月分から前記退職日昭和五六年八月五日までの間の給与の未払額を、算定する。

まず、原告の同年六月分の給与債権についてみると、原告は被告に対し同月分として金二四万円の賃金債権を取得したというべきは、前記1のとおりであるところ、被告が原告に対し、当時、同年六月分として金二四万円を支給済であることは、当事者間に争いがないから、被告は同月分の原告の右給与を全額支払済というべきである。

次に、原告の主張する同年七、八月分の未払給与については、その支払についての主張立証はなく、前記甲第四号証、弁論の全趣旨によれば、被告の給与は当時毎月一五日締切二五日支払であり、日割計算の一日分は月額の二五分の一とすることが認められるから、以上を前提にすると、右原告の退職日右八月五日までの給与としては、同年七月分として金二四万円、同年八月分として金一五万三六〇〇円(原告主張の所定勤務日一六日に従った日割計算)、が存するというべきである。

従って、原告は被告に対し、その請求にかかる未払賃金のうち、右昭和五六年七、八月分として計金三九万三六〇〇円、及び、その附帯請求につき、右合計金に対する賃金の支払の確保等に関する法律第六条所定の年一四・六パーセントの割合による遅延損害金(訴状送達の翌日であることが一件記録上明らかな昭和五六年一〇月一〇日起算)、との限度で債権を有する、と認められる。

三  退職金等について

1  (退職金規定)

原告に退職金を支給すべき場合の根拠となる規定について、原告は、財団法人日本予防医学協会の退職金規定に準拠すべき旨主張し、被告は、被告の昭和五五年一一月一日施行の退職金規定によるべき旨主張するので、この点につき検討する。

(一)  (前提事実)

成立に争いがない甲第一二号証(退職手当支給経過一覧表)、原告本人尋問の結果(第一、二回)及びこれにより成立を認める甲第三号証(財団法人日本予防医学協会の退職金規定)、被告代表者谷口正毅の尋問結果(第二回)及びこれにより成立を認める乙第四号証(被告退職金規定)、弁論の全趣旨によれば、次の(1)乃至(5)の事実が認められる。

(1) 被告では、従業員の退職金については、従来から、財団法人日本予防医学協会の退職金規定に準拠して、算定支給する運用であったこと。

(2) 右協会の退職金規定によれば、退職従業員に対し、退職時の「基本給」の二分の一と「役付手当」との合計金額に勤務期間に応じた所定の支給率を乗じた額の退職金を支給する、右支給率は、勤務期間二年で一、同三年で三、端数期間は一カ月未満は一カ月としたうえ、一年未満の分は月割として算定する、との旨定められていたこと。

(3) 被告では、その後、昭和五五年一一月一日施行の独自の退職金規定を作成したこと。これによる退職金の額は、退職時の本給に所定支給率を乗じた額とし、支給率は、勤務期間二年で一、三年で一・六、(但し、勤務期間五年未満の自己都合退職(業務外の傷病による労務不能による退職も含む)は右支給率を半分にし端数期間の取扱は右協会の退職規定と同様)とする、というもので、これは、一般に、従前の退職金の水準を引き下げる内容のものであったこと。

(4) しかし、右被告の退職金規定については、当時、労働協約の締結または個々の従業員の同意を取得したものではなく、従業員に周知徹底させてもいなかったこと。更に、右退職金規定の施行日以降の退職従業員に対し、右規定によらず、前記協会の退職金規定に準拠して、退職金を支給したこともあったこと。

(5) 右被告の退職金規定は、本来、原告が事務長として所轄するものである筈のところ、被告代表者の直接の指示で原告を経ずに他の従業員が原案を作成提出したこと。原告は、その後、右規定に従った退職金支給に一度だけ関与したが、その際、原告は、被告代表者に対し右規定による支給に異議を唱えていること。

(二)  (検討)

右事実によれば、従前被告においては、右協会の退職金規定に従って従業員に退職金を支給して来たところ、被告が昭和五五年一一月一日施行として作成した独自の退職金規定は、従前の退職金の水準の引き下げを図ったものといえるが、被告は、右退職金の引き下げにつき、労働協約の締結或いは原告の同意取得のいずれの手続きも経ていない、とみるべきであるから、従前の労働条件を一方的に引き下げることとなる被告の右退職金規定は、原告に対し効力を有しない、というべきである。

従って、原告の前記退職についての退職金は、右協会の退職金規定により、算定すべきである。

2  (退職金等の算定)

そこで、右1及び右一の検討の結果を前提にして、原告の退職金及び解雇予告手当の算定をする。

まず、解雇予告手当については、前記一3によれば、原告の被告退職の事由は、合意退職であって、被告の解雇等その責に帰すべき事由によるものではないから、その権利は生じない、というべきである。

次に、原告の退職金を、右協会の退職金規定に準拠して算定すると、原告の被告における勤務期間は、前記一1、3のとおり、昭和五三年一〇月末頃から昭和五六年八月五日までの二年一〇カ月(月未満切上)であり、原告の退職時の給与は、前記一2のとおり、「基本給」金三五万円、「役付手当」金五万円、であるから、原告の請求原因(四)<3>記載の算式のとおり(但し、退職金額は、「五九・九八五〇(万円)」と訂正する)、その支給率は二・六六六となり、その退職金は金五九万九八五〇円と算定される。

従って、原告は被告に対し、その請求にかかる退職金のうち金五九万九八五〇円とその附帯請求のうち商事法定利率年六分の割合による遅延損害金(前記訴状送達の翌日である昭和五六年一〇月一〇日起算)との限度(右遅延損害金につき賃金の支払の確保等に関する法律第六条が適用にならないことは条文上明らかである)での債権を有すると認められるが、原告の請求にかかる解雇予告手当については、本件主張立証上、これを認めることはできない。

四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、原告が被告に対し、右二2記載の未払賃金合計金三九万三六〇〇円とその遅延損害金(前記昭和五六年一〇月一〇日起算、賃金の支払の確保等に関する法律第六条所定の年一四・六パーセントの割合によるもの)、及び、右三2記載の退職金五九万九八五〇円とその遅延損害金(前記昭和五六年一〇月一〇日起算商事法定利率年六分の割合によるもの)、の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条、を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 千徳輝夫)

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